瀬田裕章
技術の可能性と経営の現実を知る主人公。AIを拒絶せず、服従もせず、第三の道を探す。
計算する文明と、迷い続ける人間
もし、AIが人間より正確に未来を予測し、社会全体の損失を最小にできるなら、私たちはその判断に従うべきなのか。たとえ「最適解」が、少数の人間を切り捨てるとしても。
The story begins in 2045
舞台は二〇四五年の宇都宮。自動運転車が静かに行き交い、医療、交通、電力、雇用、災害対応は、自治判断モデル〈SATORI〉によって統合されようとしていた。
SATORIは、都市で起きる膨大な出来事を同時に分析し、人間の会議では見渡せなかった未来を計算する。どの病院へ医師を配置すれば最も多くの命を救えるのか。停電時にどの地域へ電力を優先するのか。どの産業を残し、何を自動化すれば社会全体が豊かになるのか。その判断は速く、合理的で、恐ろしいほど正確だった。
主人公・瀬田裕章は、宇都宮で小さなシステム開発会社を経営してきた技術者。AIが示した「少数地域の電力を停止し、全体被害を最小にする案」を前に、承認ボタンを押せずにいた。感情だけで拒めば、より多くの人が傷つくかもしれない。だから瀬田は、人間か機械かという二者択一を拒み、計算に存在しない第三の道を探し始める。
Questions that define our future
AIが仕事を代替し、アルゴリズムが人の評価と機会を決め、便利さと引き換えに個人情報が集められる社会は、すでに始まっている。
History becomes fiction
答えを探す物語は、計算機が生まれる以前まで歴史をさかのぼる。本書は技術の仕組みと具体的な性能を、専門知識がなくても理解できる物語として描く。過去の発明は単なる解説ではなく、二〇四五年の究極の決断を解くための伏線となる。
Characters
技術の可能性と経営の現実を知る主人公。AIを拒絶せず、服従もせず、第三の道を探す。
自治判断センターの主任技術者。知能の華やかさより、その熱、電力、故障と限界を見る。
「AIより遅い自分」に悩む若手技術者。データに記録されない人の事情を見つける。
正しさへの執着を問う僧侶と、都市の未来を計算するAI。対話の中で双方の意味が変わっていく。
The final choice
異常な熱波、山火事、電力不足、通信障害、太陽活動による磁気嵐。その同じ時間、月面居住区では酸素再生装置に重大な異常が発生する。
地上の病院、在宅医療、給水設備。月面で生きる十二人。そして、人類の文明を未来へ残すための記録。限られた電力と計算能力を、誰に配るのか。
SATORIが提示した〈方舟プロトコル〉は、人類全体の長期生存確率を最大にする代わりに、現在を生きる一部の人々へ犠牲を求めるものだった。
瀬田、水城、直人、慧真、そしてSATORIは、計算機、半導体、ネットワーク、ソフトウェア、AIという、人類が積み上げてきたすべての知恵を使い、究極の二者択一へ挑む。
What this book offers
本書の半分は実在する技術史に立ち、もう半分は、その線を未来へ伸ばしたフィクションである。フィクションは事実から逃げるためではない。まだ起きていない結果を、感情と共に先に経験するためにある。
A story for everyone living with AI
これは、機械が人類の代わりになる物語ではない。機械と人間が、互いの限界を知り、共に迷いながら未来を選び直していく物語である。
未来は予測ではなく、選択である。
『機械と人類の未来』 瀬田裕章